大日如来は真言密教の教主である仏です。宇宙の中心にいる仏で、仏の中の王とされています。
この記事では、空海が完成させた真言密教の根源仏である大日如来についてまとめました。
特に大日如来の身体が六大(ろくだい)で構成される点は抑えておきたいポイントです。ぜひ参考にしてみてください。
大日如来とは
大日如来について詳しく見ていきましょう。
大日如来の真言
大日如来の真言はこちらです。大日如来には胎蔵界と金剛界の真言があります。
仏 | サンスクリット語 | 日本語 |
---|---|---|
胎蔵界大日如来 | オーン アヴィラ フゥーン カァーン oṃ a vi ra hūṃ khaṃ | おん あびら うん けん |
金剛界大日如来 | オーン ヴァジュラ ダートゥ ヴァーン oṃ vajra-dhātu vaṃ | おん ばざら だと ばん |
大日如来のご利益
大日如来は宇宙に存在する万物を生み出す仏の中の王です。言い方を変えれば、宇宙に存在するあらゆるものの原動力が大日如来です。
真言を唱えればあらゆる願い事を叶えることができます。
尊名の由来
大日如来のサンスクリット語の名称(梵名/ぼんめい)は「マハーヴァイローチャナ(Mahāvairocana)」でそれぞれ次の意味があります。
- マハー…大きな・偉大な
- ヴァイローチャナ…あまねく照らす
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マハーヴァイローチャナの音写は摩訶毘廬遮那(まかびるしゃな)。音写はサンスクリット語(梵語)の音をそのまま漢字に写す技法。
漢訳は大遍照(だいへんじょう)や大日遍照(だいにちへんじょう)、遍一切処(へんいっさいしょ)などがある。摩訶毘廬遮那如来(まかびるしゃなにょらい)、遍照如来(へんじょうにょらい)、大光明遍照(だいこうみょうへんじょう)とも呼ばれる。
奈良の大仏として有名な東大寺の盧舎那仏(るしゃなぶつ)は大日如来と同一の仏。元になるサンスクリット(ヴァイローチャナ)は同じだが、盧舎那仏は華厳宗の本尊になるため、密教の大日如来とは姿形が異なる。
善無畏三蔵(ぜんむいさんぞう)が大日経を漢訳した際、「大日」としたことで大日如来と呼ばれるようになりましたが、大日如来は「智慧の光明で宇宙の全てを照らす仏」を意味しています。
出典 奈良国立博物館
善無畏三蔵とは
善無畏(637年~735年11月25日)はインド出身の密教僧で三蔵法師の一人。梵名はシュバカラシンハ(Śubhakarasiṃha)。善無畏はその意訳。
善無畏は幼くしてインドの摩伽陀国(まがだこく)の国王となるが、後に出家してナーランダー寺院で達磨笈多(だるまぐぷた)に師事し、密教を学ぶ。716年に長安に赴き、唐の第9代皇帝である玄宗(げんそう)の帰依をうけ、虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)を漢訳。724年から翌年にかけて密教の根本経典である大日経を漢訳している。
なお、三蔵法師(三蔵)は「経蔵(釈迦の説法をまとめたもの)」「律蔵(仏教徒の戒律をまとめたもの)」「論蔵(経典の解釈、注釈をまとめたもの)」の三蔵に精通した大翻訳家に与えられた尊称。
大日如来の役割
「大きくあまねく照らす」という名の通り、大日如来は智慧の光明で万物を照らす存在です。
昼夜関係なく、宇宙に存在する全てのものには常に大日如来の光明が降り注いでいることから、大日如来は太陽神を超える(太陽よりも偉大)とされています。
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太陽は東から昇り、西に沈む。日中は太陽の光が降り注ぐが、夜に太陽の光が降り注ぐことはない。日中だとしても太陽の動きに応じて陰が生まれ、その陰に太陽の光が降り注ぐことはない。しかし、大日如来の光明は昼夜、陰日向(かげひなた)関係なく、常に万物を照らしている。このことから大日如来は太陽神を超えるとされる。
大日如来の光明が行き届いていないところはこの宇宙に存在しない。日の光が全く当たらない日陰だとしても大日如来の光明が常に降り注いでいる。それが「大日」という名の由来になっている。
太陽と比較した時の大日如来の働きについて、
- 除闇遍明(じょあんへんみょう)
- 能成衆務(のうじょうしゅうむ)
- 光無生滅(こうむしょうめつ)
の三種の説明が古くからあります。
曼荼羅図典の説明がわかりやすいので、そちらをご紹介させて頂きます。
太陽と比較して、大日如来の働きに関して古くから以下の三種の説明がなされる。
①大日如来の智慧の光は陰日向なく、あらゆる人々に及ぶことから「除闇遍明(じょあんへんみょう)」といわれる。
②大日如来の慈悲の働きは、曇ったりすることなく支障なく平等になされるので「能成衆務(のうじょうしゅうむ)」という。
③大日如来の慈悲と智慧の活動は、昼夜を分かたず永劫に亙(わた)って不滅であることから「光無生滅(こうむしょうめつ)」という。それゆえ密号を「遍照(へんじょう)」という。
出典 曼荼羅図典
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大日如来は時間と空間を超えた存在。あらゆる次元にその力が行き届いている。過去、現在、未来の世界はもちろんのこと、この世、仏の世界、六道世界(天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道)、精神世界など一切の世界に大日如来の光明が常に降り注ぐ。
大日如来の身体
大日如来の身体は地水火風空識の六大で構成されています。
六大は「地水火風空」の五大(ごだい)に識(心)を加えた「宇宙の森羅万象を構成する6つの要素」のことです。
六大 | 本質 | 働き |
---|---|---|
識 | 心 | 認識 |
空 | 無礙(むげ) *妨げのないこと | 障(さわ)りがない *妨げがない |
風 | 動き | 成長させる |
火 | 煖(あたた)かさ | 成熟させる |
水 | 湿気 | 摂(おさ)める |
地 | 堅さ | 保持する |
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五大は「地大・水大・火大・風大・空大」の5つの要素のこと。その五大に識大(心)を加えたのが六大。六大体大(ろくだいたいだい)という。
大日経では「私は、万物が本来生起も滅亡もなく、悟りの境地は言語を超越し、塵垢(じんこう/汚れ)がなく清浄であり、因縁から離れ、空の教えは虚空と等しいと知る。」と、大日如来が六大で成り立っていることが象徴的に表現されています。
我、本不生(ほんぷしょう)を覚(さと)り、語言(ごごん)の道を出過(しゅっか)し、諸過(しょか)解脱(げだつ)することを得、因縁を遠離せり、空は虚空に等しと知る。
大日経巻二 入曼荼羅具縁真言品(大正十八、九中)
六大 | 象徴される部分 | 真言 |
識 | 「我覚(がかく)」が識大を象徴。仏の智慧の成就のこと。大日如来が主体なので我覚る(われさとる)が識大(心)。 | 吽(うん) |
空 | 「空の教えは虚空(kha)と等しい」が空大を象徴。等虚空(とうこくう)。 | 佉(きゃ) |
風 | 「悟りの境地は因(hetu)などの働きから離れている」が風大を象徴。全てを吹き払う風の力に例えられる。因業不可得(いんごうふかとく)。 | 訶(か) |
火 | 「悟りの境地は塵垢(rajas)がなく清浄である」が火大を象徴。塵垢を焼き払う火の浄化力に例えられる。清浄無垢塵(しょうじょうむくじん)。 | 囉(ら) |
水 | 「悟りの境地は言語(vāc)を超越する」が水大を象徴。水の清めの力に例えられる。離言説(りごんぜつ)。 | 嚩(ば) |
地 | 「万物は本来生起も滅亡もない(ādyanutpanna)」が地大を象徴。大地の堅固さに例えられる。本不生。 | 阿(あ) |
大日如来が六大で構成されている点で特に重要なのは「大日如来も人格(心)を有した実在する生命体である」という点です。
識大が心であることからわかるように、大日如来も私たち人間と同じように人格(心)を持っています。
大日如来は仏の悟りを開いた仏陀(ぶっだ)なので、人間と比べたら限りなく高い人格(心)を備えた存在にはなりますが、私たち人間と同じように人格を持った生命体になります。
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大日如来は神話の神でもなく、架空の人物でもない。実在する生命体。参考 空海「即身成仏義」「声字実相義」「吽字義」ビギナーズ日本の思想 Kindle版
空海は著書「即身成仏義(そくしんじょうぶつぎ)」の中で、大日如来を象徴する真言の「あ・び・ら・うん・けん」に
言語 | 真言 |
---|---|
日本語 | あ(地)・び(水)・ら(火)・うん(風)・けん(空) |
サンスクリット | ア・ヴィ・ラ・フゥーン・カァーン a vi ra hūṃ khaṃ |
識大を表す「うん(吽)」の一字を加えて「あ・び・ら・うん・けん・うん」と、
言語 | 真言 |
---|---|
日本語 | あ(地)・び(水)・ら(火)・うん(風)・けん(空)・うん(識) |
サンスクリット | ア・ヴィ・ラ・フゥーン・カァーン・フゥーン a vi ra hūṃ khaṃ hūṃ |
大日如来が人格を有していることを明確化しています。
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「あ・び・ら・うん・けん」はそれぞれ五大を表す。あ(地)・び(水)・ら(火)・うん(風)・けん(空)。その真言に識大を表す「うん」が加えられることにより、大日如来の体が六大で構成されることになる。
「あ・び・ら・うん・けん」は大日経などに説かれる大勤勇三摩地(だいごんゆうさんまじ)の真言に由来。五大を表す。
「あ・び・ら・うん・けん・うん」の最後のうん(吽)は金剛界五仏の阿閦如来(あしゅくにょらい)を象徴。五蘊(ごうん/色受想行識)の識を表す。
大日如来と宇宙
空海が完成させた真言密教の宇宙観では、「大日如来の六大が宇宙に存在する全てのものを生み出し、あらゆるものの当体(本体/原動力)である」と考えられています。
言い方を変えると「大日如来は一切を生み出す根源仏であり、宇宙の存在も大日如来と同じく六大で成り立っている」ということです。
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この宇宙の中に六大以外で成り立っているものは存在しない。如来、菩薩、明王、天、世界、物、人間も六大で成り立っている。
大日如来が生み出したものの中には、大日如来以外の如来、菩薩、明王、天などの諸尊も含まれます。
大日経巻五 秘密曼荼羅品第十一(大正蔵十八、三十一上)の中の如来発生の偈(げ)に全ての仏は大日如来が生み出したとあり、この世で仏法を説いた釈迦(しゃか)も大日如来が生み出したとあります。
「私(大日如来)は様々な形の諸法(識大)と法相(五大)と諸仏と声聞(仏弟子)と、この世を救済する聖者と懸命に努力する菩薩たちを生み出す。人尊としての釈尊もまた同様に私が生み出した。一切の人々も彼らの住む世界も順に私が生み出した。そして彼らの生住異滅(万物が生じ、とどまり、変わり、消滅する4つの姿)という変換してゆく姿、様相などの諸法もすべてを自然のままに生み出した。」
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諸尊は大日如来が衆生を救済するために姿を変えて現れた存在。人間それぞれの思想に応じて、一人一人が最もふさわしいものを選べるようにしている。宗教や思想の違いで対立したり争うのは愚かなこと。参考 空海「般若心経秘鍵」ビギナーズ日本の思想 Kindle版
そのため、大日如来は「仏法そのものがこの世に現れた姿」とも言われています。
叡智そのものであり、根源の光そのものである大日如来は、太陽の光のようにあらゆる時代、場所にさまざまな姿で現われて、すべての生き物を救うために説法をしています。宇宙間のすべて花鳥風月草木に至るまで大日如来の説法です。
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全ての仏は大日如来の化身(姿を変えたもの)。諸仏、諸菩薩などの徳も大日如来が発するものになる。
全ての仏を含み、万物は大日如来になるため、
・神道の天照大御神(あまてらすおおみかみ)
・ゾロアスター教のアフラ・マズダー
・道教の元始天尊(げんしてんそん)
・ギリシャ神話のゼウス
・北欧神話のオーディン
といったような最高神の位置付けとは異なる。
私たち人間も大日如来が生み出した存在になりますが、特によく理解したいのは「大日如来と私たち人間は一体である」という点です。
この宇宙は大日如来の身体を構成する地水火風空識の六大から生み出されたものであり、大日如来と同じく六大で構成されているということは、宇宙は大日如来の身体であることを意味します。
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六大は宇宙の実体。諸尊、人間、人間世界など、万物は大日如来の現れになる。
同じく、人間も六大で成り立っていて、それを生み出した大日如来がその本体ということは、人間も大日如来の身体であることを意味しています。
言い方を変えると「人間ひとりひとりには大日如来の種が宿っていて、本質的に大日如来と同じである」ということです。
空海は著書「即身成仏義」で「六大は妨げがなく、常に一体である」と説いています。
六大無礙(むげ)にして常に瑜伽(ゆが)なり
これは「大日如来の身体も私たち人間の身体も地水火風空識の六大で構成されている。つまり、大日如来の身体と私たち人間の身体は一体である。」という意味になります。
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六大は地水火風空識、無礙は妨げのないこと、瑜伽は1つになる(結合して相応する)こと。参考 空海コレクション2
ちなみに、五大(地水火風空)は顕教(けんぎょう)側から見ると物質を構成する5つの要素のことですが、密教では五智(五仏)を表し、末端まであまねく行き渡っている大日如来の力の広がりを示しています。
五智 | 詳細 | 五仏 |
---|---|---|
法界体性智 (ほっかいたいしょうち) | 真理を本質とする大日如来の絶対的な智 | 大日如来 |
大円鏡智 (だいえんきょうち) | 一切のものを鏡のように正確に映し出す智 | 阿閦如来 (あしゅくにょらい) |
平等性智 (びょうどうしょうち) | 一切のものの平等性を知る智 | 宝生如来 (ほうしょうにょらい) |
妙観察智 (みょうかんざっち) | 一切のものを正確に認識する智 | 阿弥陀如来 (あみだにょらい) |
成所作智 (じょうそさち) | あらゆることを成し遂げる智 | 不空成就如来 (ふくうじょうじゅにょらい) |
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顕教は真言密教以外の教え。釈迦や阿弥陀如来、薬師如来など、大日如来以外が説く教えが顕教になる。真言密教は宇宙の根源仏である大日如来から直接秘密を学ぶ真実の教え。
真言密教の宇宙観では大日如来以外の如来、菩薩、明王、天などの諸尊は大日如来が生み出したものになる。諸尊から学んだ教えも間接的に言えば大日如来から学んだことになるが、大日如来から直接学んだわけではない。大日如来と直接繋がる宗派は密教だけ。
大日如来の姿形
大日如来は蓮の花をかたどった蓮華座(れんげざ)に坐し、頭上に宝髻(ほうけい)を結い、頭に宝冠(ほうかん)を戴き、胸に瓔珞(ようらく)、上腕に臂釧(ひせん)、手首に腕釧(わんせん)、身体に天衣(てんね)をまとった菩薩のような華やかな姿をしています。
宝髻(ほうけい) | 結い上げた髷(まげ)のような頭髪 |
宝冠(ほうかん) | 宝石で飾った冠 |
瓔珞(ようらく) | 宝石や貴金属を連ねた装身具 |
臂釧(ひせん) | 上腕につける腕輪 |
腕釧(わんせん) | 手首につける腕輪 |
天衣(てんね) | 身体にまとう布 |
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大日如来の宝冠には五智を表す五仏が描かれる。
他の如来は悟りを開いた釈迦の姿が元になっているので、パンチパーマのような髪形の螺髪(らほつ)で衣一枚の質素な姿をしていますが、大日如来は宇宙にいる絶対的な王者なので古代インドの王のような姿で表現されています。
大日如来 | 王のような華やかな姿 |
他の如来 | 衣一枚の質素な姿 |
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宝冠や瓔珞は世界を支配する理想の王「転輪聖王(てんりんじょうおう)」が身につけるもの。大日如来は菩薩よりも豪華な装飾品を身につけている。
大日如来は仏教の世界の転輪聖王である。宝冠や瓔珞を身につけることにより、最高の如来であることを示している。
また、悟りを得た如来があえて菩薩形をとることにより、生きている全ての存在を救い、悟りを得させる衆生済度(しゅじょうさいど)を実践することが示されている。
なお、転輪聖王は武力ではなく法の力で世界を統治する古代インドの理想的な王のこと。転輪王(てんりんおう)ともいう。
仏陀と同じく三十二相という瑞相(ずいそう/しるしのこと)を備え、七宝(輪宝・象宝・馬宝・珠宝・女宝・居士宝・将軍宝)と四徳(美貌・大富・無病・長寿)を兼備する。
梵名はチャクラヴァルティン(cakravartin)またはチャクラヴァルティラージャン(cakravartiraajan)。チャクラは「輪」、ヴァルティンは「動かすもの」という意味。
起源は不明。インドラ(帝釈天)の力を象徴する戦車の車輪、世界を照らす日輪(太陽)、武器チャクラム、曼荼羅を表す説などがある。
次の中央が王者の姿をしている大日如来坐像です。
出典 天野山 金剛寺
こちら↓は阿弥陀如来坐像です。大日如来との違いがよくわかります。
出典 京都国立博物館
また、大日如来の姿には「胎蔵大日如来(胎蔵界大日如来)」と「金剛界大日如来」の2種類あります。
胎蔵大日如来(胎蔵界大日如来)
仏の慈悲を象徴する胎蔵大日如来は悟りの境地を示す法界定印(ほっかいじょういん)を結んでいます。
法界定印は腹の前で左手を下、右手を上にして手の平を重ね、両手の親指の先を合わせる印です。
出典 文化遺産オンライン
金剛界大日如来
仏の智慧を象徴する金剛界大日如来は一切智智(いっさいちち)、つまり最高の智慧を持ち、全てを知る者(仏)を示す智拳印(ちけんいん)を結んでいます。
智拳印は胸の前で左手の人差し指を立てて拳を握り、その人差し指を右手で包み込む印です。右手が仏、左手が衆生(しゅじょう)を表し、一切のものを大日如来の智慧で包み込むことを表現しています。
衆生とは
生命ある全てのもの。人間だけでなく植物、動物など他の生命も含まれる。
出典 京都国立博物館
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大日如来は菩薩のような華やかな姿をしているが、印を結んでいるのが菩薩との違い。菩薩の多くは蓮華(れんげ/蓮の花)や宝珠(ほうじゅ)、水瓶(すいびょう)、錫杖(しゃくじょう)などを持っているので、手を見ることで大日如来と菩薩を簡単に見分けることができる。
胎蔵界と金剛界
「胎蔵大日如来(胎蔵界大日如来)」と「金剛界大日如来」はそれぞれ別の仏ということではなく、大日如来の2つの側面を表したものになります。
胎蔵界とは
真言密教の根本経典の1つ大日経(だいにちきょう)に説かれる世界で大日如来の慈悲を表す。母親が胎内で子どもを守り育てるように、一切のものを大日如来の慈悲で包み込み救済する。
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大日経は真言密教の二大経典の1つ。7世紀初頭に西インドで成立したと考えられている。724年から翌年にかけて善無畏が漢訳、弟子の一行(いちぎょう)が筆録。
サンスクリット原典はなく、漢訳以外ではチベット訳しか存在しない。胎蔵曼荼羅の作法や真言、密教の儀式などが説かれている。詳しくは大毘盧遮那成仏神変加持経(だいびるしゃなじょうぶつじんべんかじきょう)という。略して大毘盧遮那経(だいびるしゃなきょう)、あるいは大日経。
日本では737年に初めて書写され、747年、また753年にも書写されたことが正倉院文書の写経目録に記されている。空海は入唐以前に大和の久米寺の東塔の下で大日経を発見し、一読している。
参考 エンサイクロメディア空海
金剛界とは
真言密教の根本経典の1つ「金剛頂経(こんごうちょうぎょう)」に説かれる世界で大日如来の堅固な智徳を表す。一切のものを大日如来の智慧で育てる。
金剛界の金剛はインドラ(帝釈天)の武器ヴァジュラ(金剛杵/こんごうしょ) に由来。
空海は金剛頂経を解説した教王経開題(きょうおうきょうかいだい)で、帝釈天の金剛杵について「よく災いを消除し、福を増長する」といっている。
金剛は宝石ではこの世で最も硬く、最も美しく輝くダイヤモンドを意味する。永遠不滅の仏陀の教えをダイヤモンドに例えて金剛という。
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金剛頂経は真言密教の二大経典の1つ。金剛頂経は本来、膨大な経典の集成とされる。その経典群の冒頭の巻にあたるものが7世紀中頃に南インドで成立。これを「初会(しょえ)の金剛頂経」といい、全5部で構成される。
初会を初めて漢訳したのは中国密教の祖師である金剛智(こんごうち)。その全4巻の経典を「金剛頂瑜伽中略出念誦経(こんごうちょうゆがちゅうりゃくしゅつねんじゅきょう)」という。
後に金剛智の弟子である不空(ふくう)がインド、スリランカで膨大なサンスクリット原典を収集し、初会の第一部「金剛界大曼荼羅広大儀軌品(こんごうかいだいまんだらこうだいぎきぼん)」の最初の金剛界曼荼羅を説く部分のみを漢訳。「金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経(こんごうちょういっさいにょらいしんじつしょうだいじょうげんしょうだいきょうおうぎょう)」といい、全3巻で構成される。
この経典を略して大教王経といい、真言宗で金剛頂経という場合は大教王経を指し、空海が請来している。金剛頂経はサンスクリット原典も現存する。
なお、初会以外の十七会は不空の金剛頂経瑜伽十八会指帰(こんごうちょうきょうゆがじゅうはってしいき)に経題と内容の概説があるが経典としては現存しない。
参考 真言密教の本
両部曼荼羅
胎蔵界と金剛界をわかりやすく図絵したものが両部曼荼羅(りょうぶまんだら)です。
両部曼荼羅は胎蔵曼荼羅(胎蔵界曼荼羅)と金剛界曼荼羅の2つの曼荼羅を合わせたもので、両界曼荼羅(りょうかいまんだら)ともいいます。
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空海は金剛界、胎蔵の曼荼羅を両部という。両部曼荼羅は空海が日本にもたらした。
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真理は深く神秘的であるが故に言葉や文字で伝えることは難しい。図画を用いて真理を視覚化して伝えようとした。その典型が曼荼羅。
大日如来の起源
大日如来の起源はインド神話に出てくるアスラ神族の王(阿修羅王)ヴァイローチャナと関係があると考えられていて、ゾロアスター教の最高神アフラ・マズダー(Ahura Mazdā)やマハーバリ(Mahabali)と関連する説があります。
アフラ・マズダーと関連する説
アスラ(asura)と古代イラン語アフラ(ahura)は語源的に同一。アスラはゾロアスター教の最高神アフラ・マズダーと起源が同じと考えられている。
アフラ・マズダーは宇宙を創造した叡智の神。アフラは天空、マズダーは光を意味することから太陽神ともされ、その姿は翼と光輪を持つ王者の姿で表される。
マハーバリと関連する説
ヴァイローチャナの別名はバリ(Bali)。バリは天界の王インドラに倒された父ヴィローチャナ(Virocana)の仇を討つため、インドラの住む都へ進軍。インドラ率いるデーヴァ神族を天から追放し、天界・地上界・地底界の三界を統治した。
バリが治めた世は喜びに満ち、世界は光り輝き富に満ちあふれ、三界のどこにも飢える者はいなかったとされる。その功績から、「偉大な」という意味のマハーをつけてマハーバリ(Mahabali)とも呼ばれる。
ヴァイローチャナの父である「ヴィローチャナ」の名は古代、アスラ神族の王や太陽神の名として使用されていた。インド神話の太陽神スーリヤ(Sūrya)の別名もヴィローチャナ。
スーリヤは仏教の日天(にってん)のこと。スーリヤは仏教に取り込まれると日天と呼ばれるようになり、護法善神である十二天の一尊として太陽を守護している。
まとめ
大日如来の理解度を深めると、大日如来の真言を唱えた時の力が強まります。
真言密教の世界は簡単に語り尽くせるものではありませんが、お伝えした内容があなたの参考になれば幸いです。